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本研究の成果は、アメリカ物理学会刊行の学術雑誌「Physical Review C」に掲載されました。
さらに、本研究の重要さが評価され、アメリカ物理学会が刊行する学術雑誌の中から特に重要な 論文をピックアップして紹介する 「Physics Viewpoint」 で紹介されました。

ホイル状態とは

ホイル状態とは炭素12原子核(12C)の励起エネルギー 7.654 MeVに 存在する第二0+状態のことです。
すべての元素は、ビッグバン後に合成されたのですが、ビッグバン直後にできた元素の 大半は、水素とヘリウムのガスでした。 その水素とヘリウムのガス雲が重力によって集まり恒星が誕生しました。 12Cより重い元素を合成するためには、ヘリウム4原子核(α(アルファ)粒子) 2個からなるベリリウム8原子核(8Be)に、さらにα粒子が衝突し12C が合成される必要があります。しかし、8Beは粒子として存在する時間が 10-16秒(10分の1 フェムト秒)程度しかなく、すぐに元のα粒子2個に崩壊してしまいます。 そのため、そのままでは実際に宇宙に存在する元素組成比が説明できませんでした。
1953年、フレッド・ホイル博士は、この問題を解決するには、3つのα粒子が集まった状態 のエネルギーよりも少し高いエネルギーに0+共鳴状態が存在し、その 共鳴状態を経由して12C が合成される、と予言しました。 予言後、この0+状態はすぐに発見されたため、ホイル状態と呼ばれています。 なお、ホイル博士の共同研究者であったウィリアム・ファウラー博士は、ホイル状態を経由する 12C 合成過程を証明し、1983年「宇宙における化学元素の生成にとって重要な 原子核反応に関する理論的および実験的研究」の功績により、ノーベル物理学賞を受賞しています。

ホイル状態の2+励起状態の探索

ホイル博士によって提唱され、ファウラー博士らとともに完成させた原子核反応から宇宙における 元素組成比を説明するシナリオは、その後発展し、現在ではNACRE(Nuclear Astrophyical Compilation of Reaction Rates)と呼ばれる様々な原子核反応率をまとめたデータを用いて 元素合成や恒星の構造計算が行われています。
このNACREでは、現在の宇宙の元素組成比を再現するために、 12C のホイル状態の1.5 MeVほど上の励起エネルギーに、 αクラスター模型で予言された 2+状態が存在するとしたデータが入っています。 この 2+状態の存在によって、高温の恒星内部においても 12C が 合成され、より重い元素が次々に作られていくというのが そのシナリオです。 しかしながら、この2+状態は、実験的にはその存在を確認できておらず、 長年の間、議論の的になっていました。
そこで我々は、大阪大学 核物理研究センター(RCNP)のリングサイクロトロン加速器を 用いて原子核散乱の超精密測定を行い、世界で初めて この 2+状態の 存在を確認することに成功しました。

ホイル状態の2+励起状態の探索実験について

ホイル状態とアルファ凝縮状態

このホイル状態は、原子核構造の面からも非常に注目されています。
厳密なαクラスター模型の計算から、ホイル状態の構造は、3つのαクラスターが集まり、 それぞれのαクラスターが広がって、弱くくっついているような状態である ということが分かっています。 そのため、通常の原子核密度に比べて5分の1程度の希薄なガスのような状態だと考えられています。
近年、 原子核の反対称化の効果を取り入れた、 αクラスター模型波動関数を用いた計算によって、 ホイル状態の構造は、3つのαクラスターが、全て最低エネルギーのS軌道上に凝縮していて、 有限な系ではあるれども、原子におけるボーズ・アインシュタイン凝縮に似ているような状態で あると提唱されました。これをアルファ凝縮状態と呼んでいます。

原子核におけるα凝縮状態の探索も参考にしてください。

本研究における2+励起状態も、このα凝縮状態のような構造を持っていて、 3つのαクラスターのうち1つがエネルギーが少しだけ高い D軌道上にいる状態だと 考えられています。

炭素12生成率と元素組成比について

なお、本研究は、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター、 大阪大学核物理研究センター、京都大学大学院理学研究科、甲南大学、米国ノートルダム大学 との共同研究です。


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